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2013 Winter

ココロのコラム
PROFILE    有賀 三夏(ありが みなつ)
静岡県生まれ。女子美術大学大学院卒。中学の美術教師を務めた後、美術教育の改革に目覚め渡米。カンザス・ピッツバーグ州立大学大学院で心理学を学び、ボストンのレスリー大学大学院でアートセラピーとヒーリングアートを学ぶ。現在は東北芸術工科大学講師。自身でイラストも描いた絵本「Three Little Ones and the Golden Mane 」などの著書あり。

私とアートセラピーの出会い

アートセラピー研究者という肩書きから、心理学畑の出身に思われがちなのですが、もともと私は美術大学で洋画を専攻していました。卒業後に大学から「中学校の非常勤講師をしないか」と話があり、軽い気持ちで了解。これが人生を大きく変えることになるのです。
その頃はちょうど「ゆとり教育」が導入された時代で、授業時間の短縮と共に美術の時間は減らされていきました。異を唱える美術教師に対し、教育現場では「美術などお遊びだ。主要科目が優先されるのは当然だろう」という考え方が主流。とても悔しい思いでした。なぜなら私は美術の授業を通じて、生徒達が生き生きと自己表現する姿を知っているのですから。アートが人間形成に与える影響は決して小さくないのに、当時の私はそれを説得する言葉を持たず、ただ危機感を募らせるのみでした。
そんな時です、アートと心理学を結びつけた「アートセラピー」がアメリカで研究されていると知ったのは。これはアートの存在証明になるかも…と私は留学を決めました。32歳の一大転機です。

アメリカで学んだアートの力

アメリカでは語学に苦労しながら、アートセラピー分野では権威のあるボストンのレスリー大学へ入学。ここで私は、アートセラピーによって人々が病気やトラウマから回復していく姿を目の当たりにします。私が学んだのは「表現アートセラピー」と呼ばれるもので、絵や歌やダンスなど多彩な表現方法を使い、クライアントが創作活動の中で自らを治癒していく心理療法です。色々な素材や媒体で自分を表現することで、自分の感情への気づきがあり、解放があり、回復がある…そのプロセスを確かに実感することができました。
さらに現地のアドバイザーだった担当教授が「ハーバード大学に“多重知能理論”を研究するプロジェクトがあるから行ってみなさい」と勧めてくださり、奇跡的な幸運によって参加が叶いました。多重知能理論とは、ご存知の方も多いかもしれませんが、ハワード・ガードナー博士が提唱するMI理論のこと。人間には生まれつき8領域の知能が備わっており、人によっては1つの領域が突出していたり、平均的だったり、そのバランスがそれぞれの個性や才能につながるという考え方です。8領域には言語的能力、数学的能力、空間をとらえる能力、対人関係能力…などがありますが、この中に「芸術」はありません。なぜなら、芸術は全ての領域に関わっているからです。

アートセラピーの可能性

「多重知能理論」によれば、芸術は8領域の知能全てを伸ばしていく栄養素のようなもの。芸術性とはすなわち創造性やクリエイティブな思考であり、物事を楽しんだり、問題を見つけて解決する力でもあります。このクリエイティビティがなければ、人間は持っている8領域の知能を育てることができない…アメリカに渡って7年目、ようやく私は「教育におけるアートの必要性を証明する」という当初の目的にたどり着きました。
また一方で創造的な思考プロセスが抜け落ちていると、人生において自分で問題解決ができない人間になってしまいます。するとうつ病になりやすい。「この苦しい状況から、こうすれば逃げ出せる」と物事を柔軟に考えられず視点が固着するからです。アート思考を育てないことで、結果的にアートセラピーが必要になる…これはある意味アートへの原点回帰といえるかもしれません。
欧米では、アートセラピーは学校、精神科のクリニック、ホスピス、そして地域のセンター、刑務所、職場まで様々なシーンで用いられています。アートの力を信じる者として、私は日本でも教育や医療の現場にアートセラピーがもっと根付いていくことを、切に願っています。
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