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第1回:求められる薬剤師の役割

「神戸市立医療センター中央市民病院院長補佐・薬剤部長 橋田 亨先生」×「慶應義塾大学薬学部医薬品情報学講座教授 望月 真弓先生」
神戸市立医療センター中央市民病院院長補佐・薬剤部長 橋田 亨先生
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 2006年度から薬学教育6年制が開始され、その第1期卒業生が2012年度から実地臨床に携わるようになった。既卒の薬剤師と、6年制教育を修了した薬剤師という異なる世代が共存する中、チーム医療の担い手として、また薬のエキスパートとして、薬剤師の役割はますます重要になってきている。
 そこで、神戸市立医療センター中央市民病院の橋田 亨先生と慶應義塾大学薬学部の望月 眞弓先生に、求められる薬剤師の役割、4年制卒と6年制卒の薬剤師の共存、薬剤師の生涯教育などについて、語り合っていただいた。

慶應義塾大学薬学部医薬品情報学講座教授 望月 真弓先生

第1回:求められる薬剤師の役割

医療薬学のパラダイムシフト~5年間の変化

調剤業務だけではない~ラダーをのぼる薬剤師

橋田先生

橋田 亨先生

橋田先生
 近年、医療の高度化、多様化に伴い、薬剤師を取り巻く環境は大きく変化しており、求められる薬剤師の役割にも変化がみられます。5年前の2008年に望月先生が中心になってまとめられた提言「専門薬剤師の必要性と今後の発展−医療の質の向上を支えるために」(2008年8月日本学術会議薬学委員会専門薬剤師分科会)(以下、本提言)の内容は、着実に現実のものとなりつつあります。まず、本提言の内容についてお聞かせください。
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-20-t62-12.pdf
望月先生
 最近の医療は疾病ごとに細分化され、医薬品の使用についても専門的なアプローチが要求されるようになってきました。そして薬剤師はチーム医療の一員として、医師不足の現状において医師の負担を軽減する効果を期待され、専門性の高い薬剤師の育成が始まっていきました。しかし、各種領域の専門薬剤師の認定制度が様々な学会や団体からつくられたため、認定機関が多岐にわたり、また認定の基準も様々であったという状況でした。そこで専門薬剤師の質を確保し、薬のスペシャリストとして社会から信頼されるものにするためにも、第三者機関によって保証され、透明性を確保した専門薬剤師認定のしくみづくりが必要であると提言しました。
 また、専門薬剤師の業務範囲としては、疑義照会、治療薬物モニタリング(TDM)といった処方後に関わる従来の薬剤師業務だけでなく、処方計画段階から提案を行うこと、また処方後においても、医師に代わって副作用モニタリングのための臨床検査をオーダーするといった能動的な関わりが求められることなどを提言内容に盛り込みました。さらに専門薬剤師の存在を社会周知することの必要性についても言及しています。
橋田先生
 本提言の中に記載された「専門薬剤師に至るためのラダー」(図1)は、一般的な薬剤業務を行う最初の段階から、研修認定薬剤師を経て、副作用モニタリングやTDMのための検査オーダーなどを行う認定薬剤師、次に医薬品情報管理などを行う領域別専門薬剤師、さらに論文の作成や学会発表など先端的薬物治療研究に携わる最上位の領域別高度専門薬剤師へと、目標が図式化されており、ステップアップを目指す薬剤師に夢を与えるものだと思います。
図1:専門薬剤師に至るためのラダー

チーム医療における薬剤師の役割が明確化

橋田先生
 本提言の2年後、「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について」(2010年4月30日付け厚生労働省医政局長通知)が出されましたが、その中でチーム医療の中での薬剤師の役割が打ち出されており(図2)、本提言内容が取り入れられていたことに感激しました。
図2:薬剤師を積極的に活用することが可能な業務
望月先生
 私も同感です。通知に本提言内容が盛り込まれたのは、現場の薬剤師の方々が本提言を受けてすでに活動されていたからだと思います。通知の内容を一言で言えば、「薬剤師にはこれだけの業務を行う能力があるので、もっと活用しなさい」ということです。薬剤師の役割が明文化され確立されたことで、確信を持って業務を遂行できます。
橋田先生
 私は本提言を読んだ後、日本医療薬学会の事業でMD アンダーソン・キャンサー・センターを視察しました。そこで、病棟薬剤師が医師と化学療法レジメンを相談し、決定した投与量、投与間隔、支持療法や医療用麻薬の処方をどんどん自分から端末に入力するところを目にしました。薬剤師に処方権はないのですが、医師、薬剤師、上級看護師の三者の確認がそろって初めて処方せんが発行されるというしくみであり、医師に限らず誰が最初に提案してもよいと聞き衝撃を受けました。これがチーム医療だと、ベストの薬物療法を実現するしくみだと学び、日本でも実現したいと思いながら帰国したところ、医政局長通知「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について」が出されたのです。

ニーズに応えた実績が診療報酬を変える

橋田先生
 2012年の診療報酬改定では病棟薬剤業務実施加算が新設され、前述の医政局長通知の内容が短期間で反映されました。本提言が出されてからの5年間に、薬剤師の役割が拡大され、さらにそれらの業務が診療報酬上評価されるという、いわば日本の医療薬学のパラダイムシフトが起きたと実感しています。
望月先生
 そうですね。診療報酬がついているから業務としてするというのは当たり前のことですが、診療報酬として評価されるためには、自分たちの業務として何らかのエビデンスをつくり、それなりに実績を蓄積して示していくことも必要だと考えています。
橋田先生
 薬剤師は自らの力を養い、実力を持つことです。個々の医療現場の中にあるニーズをとらえて、薬剤師としての役割を考え、しっかり応えていくというところから新しい診療報酬体系に結びつくのではないかと思います。
病棟薬剤師にとって欠くべからざる柱~医薬品情報のシェア
望月先生

望月 眞弓先生

望月先生
 医薬品を安全に使うためには、医療関係者や患者さんにきちんと医薬品に関する情報を伝えることが重要であり、どの診療報酬加算においても医薬品情報が基本となります。伝わるべきところに情報が伝わっていないと、医療事故の起こる原因のひとつにもなると考えられます。病棟での事例をカンファレンスで伝えるなど薬剤部全体で情報のシェアは必要です。
橋田先生
 医薬品の新たな安全性情報が出た場合には、必ず最初に我々薬剤師がキャッチし、迅速に処方医および投与患者さんを特定し、検査値や患者さんへのインタビューなどを通して、対応が必要な有害事象が起こっていないかを確認することが必要です。病棟薬剤師にとって、医薬品情報を適切にシェアすることは欠くべからざる柱だと思います。当院では、若い薬剤師も先輩薬剤師の知恵を活用できるよう、問い合わせなどの情報をデータ化しiPadで検索できるシステムの実用化を進めています。
望月先生
 そのようなシステムは、事例の勉強として実習生への教育にも利活用できるとよいですね。
これからの薬局は地域に根付いた健康相談ステーションへ
橋田先生
 薬学部を卒業後、ドラッグストアや保険薬局に勤務する薬剤師も多いと思われますが、それらの薬剤師に求められる役割についてお聞かせください。
望月先生
 医薬分業の弊害のひとつと言えるかも知れませんが、従来は薬の選択は医師が行い、発行された処方せんに対して、薬局から疑義照会はするけれども、薬の選択というところまでは関わっていないことが多かったのではないでしょうか。しかしこれからの町の薬局には、地域の健康相談ステーションになることが求められると思います。近年、人口の高齢化とともに医療費は増加し続けていますが、薬局薬剤師による適切な健康相談が、医療費抑制につながると期待されます。病気の重症化を防ぐ、あるいは未病の段階でとどめるために、町の薬局の健康相談機能が重要となります。
橋田先生
 地域医療の中でのトリアージの窓口というイメージでしょうか。
望月先生
 まさにその通りだと思います。海外におけるOTC薬に関する教科書的な本にも、トリアージをどうやって実施していくかということが記載されています。患者さんに合った食生活や運動などの生活習慣のアドバイスから、セルフチェックや適切なOTC薬の選択、あるいは医療機関の受診を勧めるなど健康相談上の提案を行うことが求められています。
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